ようこそ女たちの王国へ

ようこそ女たちの王国へ (ハヤカワ文庫SF)

ようこそ女たちの王国へ (ハヤカワ文庫SF)

 いやはや、とんでもない世界だなあ!
 本書は、ウェン・スペンサー著の「A Brother's Price」を和訳したものなのですが、本書の世界観の凄い事、凄い事。舞台設定は、おそらく17〜18世紀ぐらいのヨーロッパだと思いますが、なんと男子の出生率が5%しかないという極端な世界なのです。主人公のジェイン・ウィスラー家の家族構成で見てみますと、28人の姉妹に対し、男子の数はジェインを含めてたったの4人しかいません。当然、男子の数が少なければ、数が多い女性上位の世界になるわけなのですが、男の扱い方がまた凄い。この世界では、男子は16歳になると成人するのですが、成人した後の男が辿る道は、他の家の男子と交換されるか、高価な値段で売買されるか、のどちらかになるそうです。これは、どう考えても競馬の種馬です。
 また、子孫を残すには男の絶対数が足りないので、この世界では一夫多妻制を取り入れていて、一人の夫を姉妹で共有しているようです。ウィスラー家で考えますと、姉妹の数は28なので、一人の男が長女から真ん中の妹までを妻とした場合、一度に14人の妻ができるわけです。ここでラッキーと思う方もいるかもしれませんが、少し考えてほしいと思います。当然、結婚したからには夫には夜の仕事があるわけで、毎日順番に相手を交代しても14日。そしたら、一番最初の姉に戻って……、と相手の女性が妊娠するまで同じことを毎日繰り返さないといけないのですよ? 正直、これはキツイ! 身体がもたん! 作中でも、ジェリンが数多くの女性キャラに翻弄されて、赤面したり、困惑している場面があって面白かったです。
 ただ、上で種馬だとか女性上位の世界と書きましたが、作中からジェインが家族に大事にされていることが凄く伝わってきますし、ジェインもまた自分の姉妹や、王女のレンをはじめ、他の女性を心から尊敬していることが分かりますし、決してコメディのみの物語ではありません。
 終盤に大きな波乱があったものの、長編としては淡々と物語が進んでいく印象もありませんでしたが、舞台設定が凄く新鮮で笑えましたし、非常に心温まる物語だったと思います。一風変わった世界を味わってみたい方や、家族モノが読みたい方にはぜひ読んでもらいたいです。
 いやあ、面白かった!