君のための物語

君のための物語 (電撃文庫)

君のための物語 (電撃文庫)

 第14回電撃小説大賞<金賞>受賞作、君のための物語。
 物語の内容は全く違うのですが、題名を初めて見たときは、アメリカでベストセラーになった「きみに読む物語」を思い出しました。心温まるヒューマンドラマという点では、一緒なんですけれどね。
 昨年の「ミミズクと夜の王」のように、最近の電撃文庫ライトノベルらしからぬ作品を発掘することに躍起になっているように感じるのですが、この作品も実にライトノベルらしからぬ作品だと思います。ライトノベルっぽい点を挙げるなら、主人公である「私」が驚いたときに「ぬはぁ!」と叫ぶところぐらいじゃないでしょうか。
 第一章の序盤なんて、「私」とセリア、奇妙な青年レーイの三人の会話だけで進行し、レーイの奇妙さが際立つものの、物語の展開としては、かなりスローペースな感じがしました。でも、文章力があるせいか読みづらい点はなく、第一章を読み終わると、第二、第三章とどんどん物語の中に引き込まれていきました。そして、エピローグを読み終わった瞬間、「私」とレーイの関係の変化に思わずニヤリと笑ってしまいました。まさか、レーイに可愛げを感じる瞬間がこようとは、夢にも思わなかったなあ。
 面白いというよりは、読んで良かったと思える作品だったように感じます。ただ、完成度は高いのですが、エンターティメント性から見たら地味な作品なのかもしれません。