ミミズクと夜の王

ミミズクと夜の王 (電撃文庫)

ミミズクと夜の王 (電撃文庫)

 第13回電撃小説大賞<大賞>受賞作「ミミズクと夜の王

 
 正直、魔王に自分を食べてと訴えかけるミミズクの言動にイライラした。魔王の問いに対して要領の得ない回答をするし、にへらーと不愉快な笑みを浮かべたり、間延びした口調で喋るのが勘に触った。今までのライトノベルの主人公たちと比べると、ミミズクの存在は希薄で、主人公としては弱い気がしたし、個人的に苦手なキャラだったせいか、物語を途中で投げ出したくなったりもした。
 でも、最初は自分を食べてと訴えていたミミズクが、夜の王やクロと交流をもつことで、何かを失うことの怖さを知り、そして不安に震えながらも覚悟を決める展開にはぐっとくるものがあったし、中盤以降はミミズクの行動に辟易しなくなった。
 物語の流れは、童話「美女と野獣」に似ていると思う。ミミズクと夜の王のやりとりは、野獣が美女と関わっていくことで、心を徐々に取り戻していく場面を彷彿させるものがあった。ただ、この本が美女と野獣と違うところは、美女と野獣のように絶対的な悪が存在しなかったところだと思う。魔王側と人間側、どちらも善いキャラばかりで、ミミズクにかけがえのないものを教える存在だった。最終的に、どちらかの生活を選ばなければならない展開になったが、どちらを選んでも不都合のない生活を送ることができるのに、空っぽだった少女が、大切なもののために一方を切り捨てる決断を下せるようになったことは凄いことだと思う。本書のあらすじにある通り、まさに再生の物語だった。
 よくネット上でライトノベルの定義について、あーだ、こーだと議論しているのを見たことがあるが、この本はライトノベルと呼べるのだろうか? 個人的にはライトノベルとは少し違うと思うし、どちらかと言えば童話に近いと思う。でも、今の歳だからこそ読める童話というのもいいかもしれない。そう思えるような素敵な一冊だった。
 お勧め。