■

クジラのソラ 01 (富士見ファンタジア文庫)

　異星人からの突然の攻撃に抵抗する間もなく敗れてから１０年、地球では『ゲーム』と呼ばれるシステムを用いて、小規模な宇宙空間で疑似戦争ができる遊戯が流行していた。支配の代わりに地球人に提供された『ゲーム』、異星人の真意も分からぬまま、その高度なテクノロジーに酔いしれる大人達をしり目に、桟敷原雫は姿を消した兄を追うために仲間と共に『ゲーム』をやり続けていた。
　全国大会で勝ち上がるため、雫は天才メカニックの門倉聖一をチームに勧誘するが、聖一は頑なに雫の誘いを断る。
　どうして聖一が『ゲーム』を毛嫌いするのか、そして『ゲーム』の世界大会で優勝し、消息を絶った兄は何を思っていたのか。
　試合に勝利するにしたがって、雫は『ゲーム』に隠された秘密に近づいていく――

　
　琥珀の心臓でデビューした瀬尾つかささんの新シリーズ。
　読み始めると同時に、去年よりも成長しているなあと思いました。琥珀の心臓の時よりも確実に読みやすくなっていますし、兄を追うために『ゲーム』をやり続けるブラコンの雫、考えるよりも体が先に動いてしまう元気バカの智香、体が弱くすぐに倒れてしまう冬湖、『ゲーム』の危険性を知っているがために雫に皮肉的な態度をとり続ける聖一など、主要キャラもとっつき易くなっていると思います。　
　後書きにスポ根を意識していると書いてあるとおり、試合には負けたくないという気持ちと、純粋に試合を楽しみたいと思う気持ちなど、主人公達の心情がよく書かれていたと思います。
　でも、艦隊戦と聞いて熱い戦闘シーンを期待していた分、『アウターシンガー』という超人的な設定があったのは少し残念でした。次回はもっと仲間との連携や、頭脳戦を見せて欲しいなあ。
　続きが出ることが前提になっているせいか、『ゲーム』を地球人に提供した異星人『ゼイ』についての説明が少ないですが、それは続巻で補っていくことになるんでしょうか？
　琥珀の心臓では、主人公達に容赦のない場面があったので、このシリーズがこのまま只のスポ根小説として終わるはずがないでしょうし、これからどんなシリーズになっていくのか楽しみです。